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映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』 ― 若者が生きる現代とは ―
監督:押井守 / 脚本:伊藤ちひろ / 製作:奥田誠治、石川光久 / 原作:森博嗣 / キャスト(声の出演):菊池凛子、加瀬亮、谷原章介、栗山千明、山口愛 / 製作年:2008年 / 製作国:日本 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 上映時間:121分
映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』は、2008年に公開された押井守監督の作品だ。
押井守監督の作品は、いつも内容が難しい。
この作品も、やはり難しい内容になっており、一度観ただけで理解するのは不可能だろう。
なので、私は3度ほど映画館に行き、鑑賞した覚えがある。
結局、未だによく分からないことに変わりはないが、それだけ深いテーマ性があり、とても考えさせられる映画だと思う。
「戦争と平和」「生きる意味」「現代を生きる若者」など、様々なテーマが交錯し、一つのストーリーが形作られている。
押井守は、この映画を通して何を伝えたかったのだろうか…。
映画の公式サイトでは次のように語られている。
私は、56歳になりました。
映画監督としては、若くも、年寄りでもない。
まだまだ、やりたいことは山ほどありますが、世間一般には壮年と言われる歳を生きていることを自覚するようになりました。
いつの間にか、周りが若いスタッフばかりになり、 大人になったひとり娘と向き合うようになったことが、その理由かもしれません。
今、映画監督として何を作るべきか。私は、今を生きる若い人たちに向けて、何かを言ってあげたいという思いを、強く抱くようになりました。
この国には今、飢餓も、革命も、戦争もありません。
衣食住に困らず、多くの人が天寿を全うするまで生きてゆける社会を、我々は手に入れました。
しかし、裏を返せば、それはとても辛いことなのではないか──と思うのです。
永遠にも似た生を生きなければならないという状況。
その中で次々に引き起こされる痛ましい事件。
親が子を殺し、子が親を殺す時代。
何の理由もなく、若者が自らの命を絶つ時代。
物質的には豊かだけれど、今、この国に生きる人々の心の中には、荒涼とした精神的焦土が広がっているように思えてなりません。
そんな時代を生きる若者たちに、何を言ってあげたら良いだろう?
ニートやフリーター、渋谷のセンター街で座り込む少女たち。
親を殺した少年。
彼らを大人の目線で見下し、まるで病名のような名前を与えても、何の本質にも至りません。
今こそ、彼らの心の奥底から聞こえる声に耳を澄まし、何かを言ってあげるべきだと思うのです。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の主人公は、生まれながらにして永遠の生を生きることを宿命づけられた子供たちです。
大人になれないのではなく、大人になることを選ばなかった子供たち。
彼らは、永遠に思春期の姿のまま、戦闘機のパイロットとして、常に死を意識し、全力で戦うことを選びます。
そして映画は、主人公のモノローグとともにクライマックスを迎えます。
それでも……昨日と今日は違う
今日と明日も きっと違うだろう
いつも通る道でも 違うところを踏んで歩くことが出来る
いつも通る道だからって 景色は同じじゃない
たとえ、永遠に続く生を生きることになっても、昨日と今日は違う。
木々のざわめきや、風のにおい、隣にいる誰かのぬくもり。
ささやかだけれど、確かに感じることのできるものを信じて生きてゆく──。
そうやって見れば、僕らが生きているこの世界は、そう捨てたものじゃない。
僕はこの映画を通して、今を生きる若者たちに、声高に叫ぶ空虚な正義や、紋切り型の励ましではなく、 静かだけれど確かな、真実の希望を伝えたいのです。
若者が生きる現代とは
この映画の中には、非現実的な設定が2つある。
1つは、大人にならず、ずっと思春期の姿のまま永遠の命を生き続ける「キルドレ」の存在。
もう1つは、平和な時代に人々が求めた「ショーとしての戦争」だ。
どちらも、今の若者が感じる現代を表現する大事な要素として描かれている。
なぜ、それらが「若者の感じる現代」を表してると言えるのだろうか。
その理由は、映画の公式サイトの中でも触れられている。
今の日本には飢餓も、革命も、戦争もない。
衣食住に困らず、多くの人が天寿を全うできる社会に生きる若者は、まるで永遠にも似た生を生きる「キルドレ」のようだ。
そして、平和な社会ゆえ、この先いつまで続くか分からない人生。
そのような社会に生きる若者は、逆に、常に死を意識できる「戦争」がなければ、生きていることが実感できない。
そのような状況設定を通して、まるで平気なように他人を殺し、また、自殺していく若者の心理が描かれている。
さらに、登場人物の1人である草薙水素は、愛する優一を、愛するがゆえに殺そうとするシーンが何度かある。
それは、殺すことが、相手への「優しさ」だからなのだろうか。
まるで永遠に続くかのような人生を終わらせてあげることが。
なぜ若者が他人を殺して平気なのかといえば、それが相手への「優しさ」だからということなのか。
しかし、そのような若者に対するメッセージとして、押井守は次のように締めくくっている。
それでも……昨日と今日は違う
今日と明日も きっと違うだろう
いつも通る道でも 違うところを踏んで歩くことが出来る
いつも通る道だからって 景色は同じじゃない
【関連サイト】
押井守監督作品 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公式サイト: 作品情報
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